或る殺人犯の話

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 しかし、彼にも終わりは訪れました。  彼の殺人を偶々見てしまった男性が、警察へと通報したのです。間もなく彼は、捕まりました。彼は、抵抗もせず、ただ、ぽかんとして自分を連行する警察官達を見ていました。それは、自分には後ろめたいものは何もない、そんな表情でもありました。  しばらくして、彼の裁判が始まりました。  彼は、微笑んで言いました。 「私は人の役に立ちたいのです。皆さんが、私に殺して欲しいと言ったので、殺したのです。  私は、人の役に立てて、嬉しいです。どうしてそれが、罪になるのですか?」  彼のこの言葉と、なぜか毅然とした態度は、多くの人達を困らせ、惑わせ、精神鑑定までしたのですが―――異常はどこにもありませんでした。  ―――それから程なくして、彼に死刑が言い渡されました。  彼は人並みに死ぬのが怖くありました。  どうして、僕が、と震えながらぶつぶつとしきりに呟きながら、長い長い執行まで時間をつめたい牢屋で過ごしました。  そしていよいよ、その日はやって来たのです。  死刑執行人がやってきて、彼を牢屋から出しました。そしてゆっくりと、死刑台まで連れていきました。
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