或る殺人犯の話

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 死刑が執り行われる部屋は、真っ白な部屋でした。その中心に、ぶら下がる輪状の紐、と、すぐ意味を成さなくなる、小さな踏み台。彼はその様子に、戦慄を覚えました。 「死ぬのは、嫌だ、怖い」  彼は震えながら低い声で唸りました。しかし、そんな一言で執行が中止されるはずもありません。執行人が、彼の肩をぐっと押して、白の部屋の中心へと近づけます。 「ほら、早く行け。  お前が死ぬのを、みんな待っている」 「おい、お前、そんな言い方は……」 「煩い!俺はこんなとこ、さっさと出たいんだっ」  執行人からしてみれば先ほどの発言は侮蔑や怒りの言葉でありました。彼も当然、その言葉をその感情とともに受け取るだろう、執行人達は考えていました。  彼の震えが止まりました。執行人は、彼がもしや逆上するのではないか、と一抹の不安を覚えました。  しかし彼は、純白の部屋に自ら歩み寄りました。  ―――いえ、むしろ、「駆け寄っていった」と云う方が正しいのでしょう。  彼は無機質なロープに頬摺りをし、時折キスをしました。  頭がおかしくなったのか?と執行人はその異様な光景を呆然と見つめていました。
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