或る殺人犯の話

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 すると彼は不意に執行人達の方を振り向きました。びくり、執行人達は一瞬震えましたが、彼はそんな様子など構わず、嬉々として言いました。 「どうしたんですか?早く僕を殺してください!」  これには本当に、執行人達は唖然としてしまいました。 「ど、どうしたんだ?お前は死ぬのが怖いだの言っていたじゃないか」  戸惑いつつも執行人が尋ねると…彼は笑みを浮かべました。 「いいえ、皆が僕が死ぬのを待っているのでしょう?僕は死ぬ瞬間ですら人の役に立てるんです。  こんなに嬉しいことはない!」  彼は泣いていました。しかしそれが死を直前にした絶望の涙とは、最早誰も思えませんでした。  そして、真っ白い部屋で、皆が恐れた殺人犯は命を終えました。  その死に顔に浮かんでいたのは、穏やかな…まるで聖母マリアのような笑顔でした。
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