1月15日AND16日

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市の職員、山本和子が重傷の火傷を負って近くの救急指定病院に運び込まれたのは、半年前、1月15日の深夜のことだった。 和子が住む202号室から出火、東村山消防署が駆けつけた時には、火はアパート全体に広がっていた。 それでも、最年少の陣内消防士が、梁がまさに崩れ落ちようとする直前に建物の中に飛び込み、部屋の入り口に倒れていた彼女を救出したのだ。 すでに、その時点で彼女の体の一部は炭化していたが、心肺機能は動いていたので、救急車の中でラリンゲアルマスクによる気道確保を行い、現場から5分ほどの澤村病院に搬送された。 同乗した木村救急救命士は、仕事柄これまでも、重度の火傷を負った患者を見て来たが、その時の彼女の姿が目に焼き付いて離れないのは、皮膚の焼けただれた左手が高温で溶けた携帯電話を握っていたことである。 誰かと話しているうちに一酸化炭素を吸い込んで気を失ったか、誰かに助けを求めようと携帯を手にした時に炎に包まれたのだろう。 救急車の中で彼女の左手から携帯電話を取ろうと試みたのだが、皮膚とプラスティックが癒着していて、外すことわできなかった。
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