流産

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お腹の子は自ら望んで流れてゆきました。 生まれるべきでなかったんだ、とあなたは安心したような声音で呟きます。 そんな言い方、とわたしが言い終わるのを待たずに、あなたは札束をそっと置いて出てゆきました。 ぽっかり穴のあいた子宮がひどく痛みます。 失ったものの重要さを感じているのです。 誰にも祝福されない生、 誰にも哀れんで貰えない死。 どうして。 どうしてこの子はこんな風に形も得ずに流れてゆかなければならなかったの。 わたしが孕んだ罪の子だから? だけどこの子に罪があるかしら。 わたしの不道徳な行為故にできたこの子に罪なんか。 札束が虚しくぽつりと残る。 どうしてこの場所はこんなに無慈悲なの。 冷たいの。 かつてわたしがいたあの場所は狂おしいほどに真っ赤で、ほんとに気が狂いそうだったけれど、低い心音、暖かなベッド、体全体で感じる生命、すべてがこの小さな魂に快かった。 子宮のなかで感じるママは、とてもやさしくて、いとおしくて、安心できたのに。 ママ、ママ、 消え入るような声でなく。 わたしにはママなんか居ない。 1歳で焼却炉に捨てられた。 ママなんか顔も知らない、ダイキライ。だけど。 ママ、ママ、 ママに帰りたい。
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