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「あなた。あなた。」
僕は妻の呼ぶ声で目が覚めた。
「あぁ。ごめん。」
いつもの夢にうなされていた。
「大丈夫よ。さっ汗を拭いて。」
僕は以前不慮の事故で妻の夏美を亡くした。決して裕福ではなかったが幸せに暮らしていた。それに僕は誰よりも妻を愛していた。
残された僕は4歳になる息子の祐希を男手一つで育ててきた。しかし祐希が『お母さんはいつ帰ってくるの?』と母を求めるので、2年程の期間をあけた後再婚をすることになった。その人が今の妻の夏奈子である。
「ごめんな。どうしても夏美が忘れられないんだ。夏奈子も好きだけど……」
「いいの。貴方の心が今私にむいてなくても。ただ…今いる私をみて。貴方が還る場所はここにもあるの。忘れないで。」
そう言って夏奈子は僕を抱き寄せた。
―私の還る場所はここしかないの―
夏奈子と出会ったのは偶然ではないのかもしれない。
僕は感じていた。
抱き寄せる夏奈子の温もりに、確な夏美の面影を。
~END~
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