「正体」

9/21
前へ
/1108ページ
次へ
「動き出したぞ」 匡李の言葉に舜期は顔を上げた。 「北から……長春の郷城がひとつ落ちた」 「まさか……」 舜期は目を見張る。 「それほどに、民の怒りは高まっているらしい……慶可を北に向かわせた」 「……殺すのですか?」 「抵抗すればな」 舜期は目を伏せる。 『反乱』である。 この国は崩壊寸前まで来ている。 長い間、貴族優先の政策の上に胡座をかき、私利私欲に走ってきた者達の多くはその事に気づいてすらいない。 「反乱など力でねじ伏せられる」 そう高を括り、民衆の苦しみや怒りなど一顧だにしない。 匡李の父である前王は、長く病の床にいた。 その間の負債は想像以上に大きい。 「失礼します」 扉を叩く音と共に、部屋に入って来たのは杜梨旺(ト・リオウ)だった。 わずかだが緊張の色が見える。 匡李はサッと腰を上げ、梨旺に歩み寄る。 その顔に先程までの憂いはない。 舜期は上着を羽織り、部屋の奥へ姿を消した。
/1108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10686人が本棚に入れています
本棚に追加