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その日はいつもと何かが違っていた。
歯車が微妙にズレた時のような不快な感覚に陥る。
蜘蛛の巣のように張り巡らされた包囲網、追っ手を撒いている筈が、祥葵の狙う場所へ、徐々に追い込まれてゆく。
(スキがない……っ)
祥葵の配置は完璧だった。
いつものように旧市街の路地へ駆け込むと、その先々に武官の姿がある。
とっさに横路に駆け込み、足を止めた。
(行き止まりっ……)
左右は壁、後ろからは武官。迫ってくる足音に、彗は立ち尽くした。
………………………………………
「アレ……?」
銀を追って路地に駆け込んだ武官達は、たたらを踏んだ。
正面の壁を見つめ、視線を交わす。
「……いない……」
月が照らす石畳の上に、『銀』の姿はなかった。
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