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「祥葵(ショウキ)」と言った。
昨日、『銀』捕縛の指揮をとっていたのが『蒼祥葵』であることを知っていたのは、極限られた人間だけだ。
もちろん、彗も知らなかった。
(彼は軍の、しかもかなり内部の情報を知り得る立場にいるということ?
城の内にいる人間?
何故『銀』を助けたのだろう……?
彼も貴族に反感を持っているということなのか……)
「彗?」
「えっ……」
「どうしたの、全然食べてないじゃない?」
「あ……」
舜期に言われ、彗はかき混ぜていた汁の椀を慌てて飲み干す。
「どうしたの、その手?」
「え……」
彗は左手の甲を見た。
昨夜、逃げていた時に何処かで切ったらしい。
スッと線を描いたように赤くなっている。
「もぅ、血が滲んでるじゃないっ」
朱嬰(シュエイ)は、彗の手をぐいと引いて手巾を縛る。
「何かあったんですの?」
藍嬰(ランエイ)が心配そうに彗を見つめる。
「何でもないの、ホントにっ」
誤魔化すように笑い、知らずため息をつく彗に、三人は顔を見合わせた。
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