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麗江を出て五日、鵬は船の上にいた。
馬で三日、開封(カイフォン)で足の速い帆船に乗り換えた。
慣れない馬に乗り続けていたせいで、全身筋肉痛だ。尻も痛い。
鵬は顔を上げ、左右に続く翠(ミドリ)の山々を眺めた。
帆に初夏の風を孕(はら)み、船は滑るように緩やかに流れる大河を進んで行く。
「なぁ」
「ん?」
「長春に行くんじゃないのか?」
「ん……」
この先、河は大きく左に流れを変える。
長春とは別方向だ。
鵬は船板に寝転がる龍伯の顔から、日除けに広げた本を取り上げた。
龍伯は眩しげに目を細め大儀そうに体を起こすと、ぐるりと視線を巡らせる。
少し(かなり?)風変わりな皐家の使用人は、不思議な程にスルリと鵬の心に入り込んできた。
飾り気がなく、遠慮のない物言いをするので、鵬もすぐに気を使うのをやめた。
饒舌なわけでもない、かと言って寡黙なわけでもない。
昔からの友人のように、沈黙が苦にならず、側にいるのが自然に感じた。
間もなく、船は方向を変え左岸にある船着き場に止まった。
「降りるぞ」
「えっ」
龍伯はサッと立ち上がると、荷物を肩に船を降りる。
鵬は慌ててその後を追った。
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