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奥方を見送り、2人は草原に寝転んだ。
帰る船も馬もない。
今夜は野宿らしい。
陽は既に沈み、蒼穹にポツポツと星が輝き出す。
「なんで、ここに来ると分かった?」
龍伯は懐から取り出した文を、隣にいる鵬に投げた。
広げると流麗な文字で一言、「夏墟」と書かれている。
「屋敷を出る時、あの人は必ず文を残して行く」
『何のため』とは聞かない。
もちろん、龍伯に自分を追わせるためだ。
「月殿って……?」
「あの人の名だ」
鵬は驚いたように龍伯を見た。
貴族の女は滅多な事で真の名を明かしたりしない。
鵬の心を読み取ったように、龍伯は小さく笑う。
「あの人は義理の母……紫翠は俺の父だ」
「えっ……」
鵬は言葉を失った。
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