「銀(しろがね)」

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彼は、刃こぼれした剣を鞘に仕舞い、肩で息をしながら振り返った。 追っ手はすぐそこまで来ている。 捕まれば命はない。 彼は右手を差し出して待った。 祈るように…… 彼女は怯えたように彼を見上げて、それでも彼の手を取った。 月のない朔の夜、闇だけが二人の味方だ。 彼女は、豪奢な衣装も簪も惜しげもなく捨てて、馬に飛び乗った。 その夜を境に、銀が都に現れることはなかった。
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