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「ら、藍嬰、今日は一緒にいてくれない?」
「お互い本音で話し合うなら、二人きりの方がいいですわ」
にっこり笑って(目は笑っていない)、藍嬰はばっさり彗の申し出を拒否した。
何時も通り夕餉の皿が並べられた一室で、彗は不安と落ちつかなさと、居たたまれなさに苛まれながら、匡李を待っていた。
(すっごく怒ってたな…………匡李)
今朝は朝餉もとらずに朝議に行ってしまった。
頬を叩かれるのは子供の頃以来だと、彗は思い返す。父はあまり怒らない人だった。
彗の無鉄砲な行動に最も振り回され、叱ったのは伯夕だ。
「はぁ~」
卓子に突っ伏して、ため息をつく。
龍の形に彫刻された人参を見つめ、うねる身体の鱗を視線でなぞる。
(よく出来てるなあ…………)
風に靡く髭と鬣(たてがみ)、見開いた眼に、開いた口から覗く牙、今にも動き出しそうな迫力がある。
龍は王の象徴であり、手に持った宝珠は力の源とされる。
わざわざ水晶を持たせている辺り、流石と言うか、無駄というか…………
そんな取り留めの無いことを考えていると、扉の外から女官が王の到着を告げた。
彗は慌てて立ち上がる。
(ど、どうしよう…………)
「…………何をしている?」
「今朝は、勝手な行動でご迷惑をお掛けし、本当に申し訳ありませんでした」
彗は床に跪き、頭を下げる。
暫しポカンと見つめていた匡李は、慌てて彗の腕を掴み、顔を上げさせた。
「そんな事、しなくていい。取り敢えず椅子に座れ」
匡李は半ば抱えるようにして、彗を椅子に座らせた。
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