瑠璃の華

20/22
前へ
/1098ページ
次へ
「伯夕」の名を聴いて、匡李は思い出す。 確か、彗の初恋の相手で、舜期と二人で池に入る原因になった簪を作った人物だ。 「そんなに厳しい人なのか?」 「ううん、普段は穏やかで、他人に怒ったところは殆んど見たことない…………私以外には」 匡李は首を傾げる。 「村の真ん中に大きな樹があって、子供の頃、『誰が一番早く樹に上れるか』競争してたの」 「は?」 「歳上の男の子もいたけど、私一度も負けたことなかった。それで今度は『誰が一番上まで登れるか』競争したんだけど…………」 鵬に師事していたため、市井の子供達と変わらない遊びもしていた。 勿論、木登りをしたこともある…………が。 「それは、女子もやる遊びなのか?」 「普通は、あまりやらないかな?」 だろうなと、匡李は思う。 「それで?」 「で、枝の先まで行き過ぎて枝が折れちゃって」 「はあっ!?」 「偶々、通りかかった伯夕が受け止めてくれて、そのあと思い切りひっぱたかれた」 正確には落ちてきた彗を受けとめようとして、下敷きになったのだが。 集まっていた少年達も、普段は穏やかな伯夕の怒気に驚き、それ以来危険過ぎる遊びはしなくなった。 それでも彗の無鉄砲が発動する度、伯夕は彗を叱り、諭した。 「だから、頬を叩かれたのは匡李で二人目」 (二人目…………ね) 匡李は複雑な気分で「二人目」という言葉を考える。 (初めて彗を叩いたのも、彗が恋したのも、彗に簪を贈ったのも、全て「伯夕」という事か…………) 「彗は、伯夕のどこが好きだったんだ?」 「へ?」
/1098ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10615人が本棚に入れています
本棚に追加