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「伯夕」の名を聴いて、匡李は思い出す。
確か、彗の初恋の相手で、舜期と二人で池に入る原因になった簪を作った人物だ。
「そんなに厳しい人なのか?」
「ううん、普段は穏やかで、他人に怒ったところは殆んど見たことない…………私以外には」
匡李は首を傾げる。
「村の真ん中に大きな樹があって、子供の頃、『誰が一番早く樹に上れるか』競争してたの」
「は?」
「歳上の男の子もいたけど、私一度も負けたことなかった。それで今度は『誰が一番上まで登れるか』競争したんだけど…………」
鵬に師事していたため、市井の子供達と変わらない遊びもしていた。
勿論、木登りをしたこともある…………が。
「それは、女子もやる遊びなのか?」
「普通は、あまりやらないかな?」
だろうなと、匡李は思う。
「それで?」
「で、枝の先まで行き過ぎて枝が折れちゃって」
「はあっ!?」
「偶々、通りかかった伯夕が受け止めてくれて、そのあと思い切りひっぱたかれた」
正確には落ちてきた彗を受けとめようとして、下敷きになったのだが。
集まっていた少年達も、普段は穏やかな伯夕の怒気に驚き、それ以来危険過ぎる遊びはしなくなった。
それでも彗の無鉄砲が発動する度、伯夕は彗を叱り、諭した。
「だから、頬を叩かれたのは匡李で二人目」
(二人目…………ね)
匡李は複雑な気分で「二人目」という言葉を考える。
(初めて彗を叩いたのも、彗が恋したのも、彗に簪を贈ったのも、全て「伯夕」という事か…………)
「彗は、伯夕のどこが好きだったんだ?」
「へ?」
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