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彗は口に含んだ冬瓜の羮を噛まずに呑み込んでしまい、慌てて茶を飲み、息をついた。
「大丈夫か?」
彗は手巾で口を拭きながら、「急に何?」と眉をひそめた。
「美人の姉上の婚約者なら、かなりの美男子だったとか?」
彗は首を傾げる。
優しく、真面目で働き者。腕のよい簪職人だが、見た目は平凡だ。
姉に結婚を申し込んだ中には、伯夕よりずっと美男子で、お金持ちの人もいた。
けれど、姉が選んだのは伯夕だった。
その理由を、彗は知っている。
「優しくて、心の強い人だった…………」
昻樹(コウジュ)に赤紙が来た時も、自分の事より、両親や彗の事を気遣っていた。
本当は誰より辛いはずなのに、彼は決して彗達の前で涙を見せなかった。
「普段は気弱なくらい優しいのに、本当に大事な時にはちゃんと叱ってくれる…………構って欲しくて、わざと叱られるような事もしてたっけ」
幼い恋だった。
そんな彗に、伯夕はずっと付き合ってくれた。
「ある時、言われたの。『昻樹に結婚を申し込もうと思ってる』って。多分、伯夕は私の気持ちを知っていて、ちゃんと振ってくれたんだと思う。でも、私は言えなかった……『ずっと好きだった』って」
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