雲瑠璃

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「雲漢殿」 やや高めの柔らかな声に振り返ると、遊季が坂を登ってくるのが見えた。 彼は蘭州府から派遣されている官吏で、二十歳になったばかりと聴いた。優しげな見た目に似合わず、仕事には一切妥協しない厳しさを持っている。 「どうですか、窯の具合は?」 「悪くない。そっちの準備はどうなってる?」 「職人候補の方達は、明日の朝、こちらに着く予定です。ご依頼の顔料と石は下の建物に揃えてありますが、ここに運ばせますか?」 「いや、下で確認させてもらおう」 雲漢は窯の見張りを職人の一人に任せ、遊季について小屋へ向かった。 遊季の仕事ぶりは大したものだった。 灰、顔料、石、器を形成するための道具が少しの不足もなく揃えられている。どれも希望以上の品だ。素直にそう伝えれば、「老人家と藍孔明殿のお陰です」と、彼は答えた。 藍孔明は国随一の商人で、旺家とも繋がりが深かった。碇春が惨殺された後の武勇伝は、雲漢も知っている。 「老人家…………あの人は何者なんだ?」 見た目は「商家の隠居」のようで、普段住む庵もごく質素な物だった。 ただ、遊季は勿論、州牧補佐の孫(ソン)でさえ、彼の前では礼を尽くしていた。決して高圧的ではないのに、彼には人を従わせる風格がある。 「それは、どうか直接お尋ねください」 遊季はそう言って、言葉を濁した。 恐らく、口止めされているのだろう。それ以上は聴かず、雲漢は幾つか選んだ物を手に、窯の側にある小屋に戻った。
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