雲瑠璃

5/15

10572人が本棚に入れています
本棚に追加
/1083ページ
彗の住む宮は、「月長宮(ユエチャンゴン)」と呼ばれている。恐らく「月長石」からつけられた名だろうと、藍嬰は言った。 宮の名前など何でもいいと思っている彗だが、「月」の響きは気に入っている。 鵬の住む外西宮を通り抜け、門を二つくぐりながら、彗は武術を習う切っ掛けとなった事件について牙葵に話した。 「正しさを主張するだけじゃ、何も変わらない。変えるには力がいるんだって、子供ながらに思ったの。まあ、それでもどうしようもない事の方が多いって、今は思ってるけど」 この世は理不尽で、優しいばかりじゃない。 それでも、心を預けられる相手はいるし、この世界を優しいと思える事もある。 心を曲げられない、嘘のつけない不器用な自分を見捨てず側にいてくれる人達も。 「後悔したくないの、私のために傷つく誰かを見たくない。だから、今出来ることは全部やるわ」 瑠璃宮の前では、藍嬰が彗を待っていた。 彗は小さく手を振って、クルリと牙葵を振り返る。 「だから、暫く付き合ってね」 牙葵は小さく笑って「はい」と答えた。
/1083ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10572人が本棚に入れています
本棚に追加