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彗の住む宮は、「月長宮(ユエチャンゴン)」と呼ばれている。恐らく「月長石」からつけられた名だろうと、藍嬰は言った。
宮の名前など何でもいいと思っている彗だが、「月」の響きは気に入っている。
鵬の住む外西宮を通り抜け、門を二つくぐりながら、彗は武術を習う切っ掛けとなった事件について牙葵に話した。
「正しさを主張するだけじゃ、何も変わらない。変えるには力がいるんだって、子供ながらに思ったの。まあ、それでもどうしようもない事の方が多いって、今は思ってるけど」
この世は理不尽で、優しいばかりじゃない。
それでも、心を預けられる相手はいるし、この世界を優しいと思える事もある。
心を曲げられない、嘘のつけない不器用な自分を見捨てず側にいてくれる人達も。
「後悔したくないの、私のために傷つく誰かを見たくない。だから、今出来ることは全部やるわ」
瑠璃宮の前では、藍嬰が彗を待っていた。
彗は小さく手を振って、クルリと牙葵を振り返る。
「だから、暫く付き合ってね」
牙葵は小さく笑って「はい」と答えた。
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