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「箕子(キシ)様に届けたいものがあるのだけど、牙葵に頼んでもいい?」
朝餉の席で、彗は匡李にそう切り出した。
「伯父上に? 別に構わないが…………何を届けるんだ?」
「梅と蝋梅。今朝、庭で切ってきたの、いい匂いでしょ? 斎宮には花をつける樹がなかったから、お裾分けしたくて」
そう言って、花瓶に生けた枝を匡李に見せる。
彗は箕子の事を慕っている。
箕子の方も彗を気にかけているようで、数回しか会ったことのない二人は、不思議なほど気が合っていた。
とは言え、互いに外に出ることが難しい立場だ、顔を合わせる機会は限られている。それでも折々に手紙のやり取りはしているようで、その頻度は甥である自分より余程多い。
「それだけか?」
「え?」
「牙葵に頼んだのは、それだけか?」
「…………」
ズバリと聞かれ、彗は思わず口をつぐむ。
匡李は時々、驚く程に勘がいい。
彗に関しては、特に。
「何で、バレたの?」
「彗は隠し事がある時、いつもより愛想がいい」
「…………」
「それで、本当の目的は何だ?」
彗は観念した。
こうなれば、言うまで匡李は許さないだろう。彗は寝室から持って来た手紙を匡李に差し出す。
「…………」
「朱嬰の部屋の扉に挟まれてたの」
「お前を殺そうとした相手だぞ?」
「牙葵と同じこと言うんだね。本当は私も行きたかったんだけど…………流石に無理でしょう?」
「当たり前だ」
渋い表情で、匡李は手紙を卓子に放り投げる。
「牙葵は承知したのか?」
「渋々ね」
「後宮の女を嫌っている」と聴いたので、最初はどうなるかと思ったが、牙葵は優秀な護衛だった。
実直で腕が立ち、職務と、何より彗に忠実だ。彼女に害を成す者なら、例え王でも斬るのではないかと感じる程に。
「ならいい、許す」
「…………」
「何だ?」
「いや、その…………もっと反対されるかと思った」
「俺がこの女なら、同じことを願うだろうからな…………彗もそう、思ったんだろう?」
彗は手紙を畳みながら、頷いた。
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