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牙葵を見送り、箕子は自室へと戻る。
彗が届けてくれた梅と蝋梅は、花瓶に生けられ、窓辺に置かれていた。紅と黄色の小さな花をつけた枝は、微かに甘い薫りを放っている。
(いい薫りだ…………)
梅は、弟の師傅であった杜夏慧が好んだ花だ。齋宮に入った箕子に、匡樹はその枝を何度か届けてくれた。
あの頃の箕子は、弟に対する複雑な感情を上手く消化出来ず、その優しさから目を反らしていた。結果、父の暗殺が起こった時、対処が遅れた。
もしもあの時、箕子が父や弟と向き合う事をしていたら、あの悲劇は止められたかもしれない。そう思うと、後悔ばかりが押しよせる。
箕子は寝台に腰かけ、懐の手紙を開く。
その筆跡は、箕子の知るものとよく似ている。
綴られた優しい言葉を指でなぞり、箕子はそっと目を閉じた。
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