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斎宮で箕子から手紙の返事を受け取り、宮城に戻ったのは日暮れ前だった。
その頃には雨も上がり、黄昏時の光が辺りを包んでいる。
人気のない外朝を歩いていると、正面からよく知る人物が歩いてくるのが見えた。
「牙葵」
「祥葵…………」
このところ牙葵は後宮に詰める事が多く、たまに家に帰った日は祥葵が宿直だったりとすれ違いが続き、同じ邸に住んでいながら顔を合わせるのは久し振りだった。
「珍しいな、外出だったのか?」
「はい、煌妃様の使いで斎宮に」
「斎宮?」
「梅と蝋梅を届けて欲しいと」
「へえ…………そう言えば、煌妃は大丈夫なのか?」
先日の事件について、祥葵は勿論知っている。
煌妃とは面識はないが、十六歳になったばかりの少女が殺されそうになったと聞けば自然に出てくる問いだ。
そう、「彗」という人物を知らなければ。
「まあ…………」
まさか襲われた翌日に「剣術を教えて欲しい」と頼まれたとは言えない。
「そう言えば、沈光殿にお会いになったとか? 煌妃の希望だったと聴いたが」
「みたいですね」
「何故、大司冦に?」
「さあ…………私などには想像もつかない事をなさる方なので」
祥葵は首を傾げる。
祥葵は今の王を若いが賢明で民を重んじ、自分を律する事の出来る人物だと思っている。
そんな王が選んだ妃はきっと可憐で賢く、慎み深い女性だろうと、勝手に想像していた。
そう言えば、今度は牙葵が首を傾げる。
「可愛らしく賢い方だとは思いますが…………どちらかと言えば快活で行動的な女性だと思います」
牙葵としては目一杯、言葉を選んだつもりだが、祥葵は余計に混乱したようだ。
「煌妃」についての話はそこで終え、互いの近況を話した後、「そう言えばな」と祥葵は牙葵に幾つかの情報を与えた。
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