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「雲瑠璃」の製造が漸く始動にこぎつけた頃、遊季は突然、蘭州府へ戻るよう命じられた。
慌ただしく同僚の官吏に引き継ぎをし、遊季は夕暮れの道を馬で駆けた。
到着した時には日はとっぷり沈んでおり、着替える間もなく、州牧室へ向かう。
護衛の兵が執務室の扉を開けると、周(シュウ)はのんびり顔を上げた。
どうやら囲碁をさしてしたらしい。
相手は背を向けており、顔は見えない。官服を纏ってはいるが、髪は項で括っただけで冠をつけてもいない。
(通常、官吏は髪を結い冠をつける)
「ずい分早かったな」
「遊、ご命令により戻りました」
「硬い挨拶はいいから」と言いながら、周が手招く。
周の向かいにいた男が立ち上がり振り返った顔を見て、遊季は一瞬息をのんだ。
白い肌に整った顔立ち、長い前髪の間から覗く切れ長の瞳が目を引く。
「紹介しよう、奏劉(ソウリュウ)だ」
男は無言で一礼する。
「辞令だ、遊官吏。本日この時をもって、そなたを雲州州牧補佐に任じる」
「…………は?」
「『は?』じゃないよ遊季ちゃん、こういう時は『慎んで拝命いたします』ってのが決まり文句だろう?」
「いやいやいや、ないないない! おかしいですよ、一官吏がいきなり『州牧補佐』とかあり得ませんって。しかも、何で雲州なんですか!?」
「何でって、辞令だから仕方ないでしょう?」
周はひらひらと辞令の紙を遊季の目の前で揺らす。確かに偽造されたわけではないようだ。
「絶対、手を回したでしょうっ? あ、老人家(ラオルェンジア)の仕業ですねっ!」
「で、引き継ぎは明日から二日間、明明後日(しあさって)には雲州に出発だから荷物を纏めておくように。以上」
「周州牧っ」
「あ、雲州は何かと物騒だから、護衛をつけてあげる」
そう言って、周は奏劉に目をやる。
「よろしくお願いします」
「え、護衛って……彼が…………?」
遊季はまじまじと奏劉を見る。
どう見ても遊季よりも若い、しかも「護衛」って顔じゃない。そして官服がすごく似合ってないっ!
「お前の護衛だ、ちゃんと面倒見てやれよ」
そう言うと、周は二人を部屋から追い出した。
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