涙の理由

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取り敢えず自分の部屋がある官舎に向かいながら、遊季は後ろを歩く青年に話し掛ける。 「えっと…………君は武官なの?」 「いえ、数日前まで犀州で雑用をやっていました」 「犀州…………寒いところだね。僕は蘭州の生まれなんだ。こう見えても二十四歳なんだけど、君若いよね?」 「年明けで十八になりました」 (若っ) 背は遊季より高いが、細身でとても武術をやっている風には見えない。 「武官じゃないのに、何故護衛を?」 「大丈夫ですよ。犀州で鍛えられましたから、見た目よりお役に立てると思います」 そう応えた奏劉の手は、確かに剣を持つ者のそれだった。 「明日は州城で引き継ぎ、明後日は窯場に行って、明明後日の朝に雲州へ出発と伺っていますが?」 「うん」 「では、明後日の朝、お迎えに来ます」 気がつけば、自室の前だった。 奏劉は拱手し、その場を辞した。 部屋に入り一人になると、遊季は寝台に倒れ込む。色々ありすぎて考えがまとまらない。 それでも、三日後には雲州に行かねばならないということは理解した。官吏である以上、辞令に逆らうことは出来ない。 「雲州に行かせて、何をやらせたいんだ?」 時期も異例なら、人選も異例、今進めている事業と無関係ではないだろうが。 雲州城は州の東、龍州に近い場所にある。 (今の州牧って誰だっけ…………) あれこれ考えながら、いつの間にか遊季は眠りに落ちていた。
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