10621人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日、遊季は後任に引き継ぎを行い、夕刻挨拶のために杜家を訪ねた。
客間に通されると、そこには姚夫人と姉御、そして華青(カショウ)が揃っていた。
「遊季ちゃん、雲州に行くんだって!?」
「えらく急な話だねえ」
「州牧補佐なんて、大出世じゃないか」
がわらわらと寄ってきた三人に、遊季は浮かない顔で頷いた。
「この度の昇進、御祝い申し上げる」
「…………ありがとございます」
梨雲の言葉に遊季は拱手する。
「なんだなんだ、浮かない顔だな」
華青は遊季の首に腕を回して頬を引っ張る。
「やめてくださいよっ、もう…………」
頬を撫でながら、遊季は姚夫人に促され椅子に座った。卓子には料理と酒が並んでいて、すっかり「送別会」の雰囲気になっている。
「昨夜、周殿から連絡をもらった。ずい分と急な話で驚いたが、『遊季なら安心して送り出せる』と言ってらしたぞ」
「州牧が…………?」
「言っておくが、私はこの件については何も知らない。本当だ」
「あたしらもね」と姉御達も頷く。
「ほら、折角の料理が冷めちまうよ」
姚夫人の言葉で皆箸をとった。
料理はどれも本当に美味しかった。
食材もかなり奮発しており、姚夫人が張り切って腕を奮ってくれたのが目に浮かぶ。
「雲州か…………ちょっと物騒な場所だな」
「大丈夫なのかい?」
「周州牧が護衛をつけてくださったので」
「「「護衛?」」」
「蘭州の武官か?」
「いえ、犀州から来た人です」
「「「犀州?」」」
梨雲が眉をひそめる。
「犀州と言えば最近、州牧が刺客に襲われて重傷を負ったと聴いたが…………」
「そうなんですかっ?」
「そいつ、護衛に失敗して飛ばされたんじゃないのか?」
冗談とも本気ともつかない華青の言葉に、遊季は首を振る。
「武官ではなくて、犀州では雑用をしていたと」
「「「雑用っ?」」」
「でも腕は立つそうですよ、本人曰く…………」
「ちょっと、何で大事な遊季ちゃんの護衛が得体の知れない元雑用係なのさっ」
「そうだぜ。そんな奴より、俺の方が幾らかマシだっ」
「どうせ老人家が絡んでるんだろう?」
「ちょ、ちょっと待て、本当に私は何も知らないんだっ!」
三人に詰め寄られ、梨雲はのけ反りながら咳払いをする。
「それに、周州牧が認めた人物だ」
梨雲の言葉に三人は黙り込む。
最初のコメントを投稿しよう!