涙の理由

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翌日、遊季は後任に引き継ぎを行い、夕刻挨拶のために杜家を訪ねた。 客間に通されると、そこには姚夫人と姉御、そして華青(カショウ)が揃っていた。 「遊季ちゃん、雲州に行くんだって!?」 「えらく急な話だねえ」 「州牧補佐なんて、大出世じゃないか」 がわらわらと寄ってきた三人に、遊季は浮かない顔で頷いた。 「この度の昇進、御祝い申し上げる」 「…………ありがとございます」 梨雲の言葉に遊季は拱手する。 「なんだなんだ、浮かない顔だな」 華青は遊季の首に腕を回して頬を引っ張る。 「やめてくださいよっ、もう…………」 頬を撫でながら、遊季は姚夫人に促され椅子に座った。卓子には料理と酒が並んでいて、すっかり「送別会」の雰囲気になっている。 「昨夜、周殿から連絡をもらった。ずい分と急な話で驚いたが、『遊季なら安心して送り出せる』と言ってらしたぞ」 「州牧が…………?」 「言っておくが、私はこの件については何も知らない。本当だ」 「あたしらもね」と姉御達も頷く。 「ほら、折角の料理が冷めちまうよ」 姚夫人の言葉で皆箸をとった。 料理はどれも本当に美味しかった。 食材もかなり奮発しており、姚夫人が張り切って腕を奮ってくれたのが目に浮かぶ。 「雲州か…………ちょっと物騒な場所だな」 「大丈夫なのかい?」 「周州牧が護衛をつけてくださったので」 「「「護衛?」」」 「蘭州の武官か?」 「いえ、犀州から来た人です」 「「「犀州?」」」 梨雲が眉をひそめる。 「犀州と言えば最近、州牧が刺客に襲われて重傷を負ったと聴いたが…………」 「そうなんですかっ?」 「そいつ、護衛に失敗して飛ばされたんじゃないのか?」 冗談とも本気ともつかない華青の言葉に、遊季は首を振る。 「武官ではなくて、犀州では雑用をしていたと」 「「「雑用っ?」」」 「でも腕は立つそうですよ、本人曰く…………」 「ちょっと、何で大事な遊季ちゃんの護衛が得体の知れない元雑用係なのさっ」 「そうだぜ。そんな奴より、俺の方が幾らかマシだっ」 「どうせ老人家が絡んでるんだろう?」 「ちょ、ちょっと待て、本当に私は何も知らないんだっ!」 三人に詰め寄られ、梨雲はのけ反りながら咳払いをする。 「それに、周州牧が認めた人物だ」 梨雲の言葉に三人は黙り込む。
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