涙の理由

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「護衛って、どんな奴なんだい?」 「えっと、細身でやたら美形で、歳は十八…………あと、官服が全然似合ってませんでした」 「…………何だそれ?」 「どっかの若様か何かかい?」 「んー官吏と言うよりは、役者とかの方が似合いそうな感じですかね…………」 「本当に大丈夫なのかい?」 姉御の問いに、梨雲は無言で茶を啜った。 食事を終えると、遊季は改めて礼を述べ、別れの挨拶をした。 遊季の実家は蘭州の東にあるため、寄っている時間はない。官舎に戻り荷を纏め、実家に手紙を書き終えた頃には深夜を過ぎていた。 がらんとした部屋を見れば、多少の寂しさはある。そんな感傷を侵食するように、睡魔はすぐに訪れた。 遠くで音がする。 拳でなにかを叩く音だ。 誰かが扉を叩いている…………扉…………? 意識が一気に覚醒する。 今、何時だ!? 遊季は慌てて寝台から下り、扉を開けた。 「おはようございます」 「おはよう…………今何時?」 「卯の刻を四半時過ぎた頃です。昨夜はお休みが遅いようでしたので、念のため少し早めに伺いました」 扉の前に立つ奏劉は、髪を纏め、簡素な冠を笄(こうがい)で止めていた。足元に布を巻き、変わった形の革靴を履いている。道衣に似た旅装は、官服より余程彼に似合っていた。 「すまない、助かった」 「いえ」 柔らかく笑んで、奏劉は扉を閉める。 遊季は急いで身支度を整え、雲州へ送る荷物を確認して、部屋を出た。 そのまま州牧室へ向かう。 「遊です」 「入れ」 周は後ろに立つ奏劉も中に入るよう手まねいた。 「行くのか?」 「はい。窯場に寄って、明日出発します」 「そうか」 遊季の雲州への異動は内密に行われるため、知る者は限られている。 同僚達に挨拶出来ないまま行くのは心苦しいが、仕方がない。 「気をつけて行け。頼んだぞ、奏劉」 「はい」
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