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「雲州は国の西端、西国に最も近い場所にある。
土地の多くは砂地に覆われ、農業には適さないが、代わりに西国と都を繋ぐ交易路、宿場町として栄え、商人達が落として行く金や税で潤っていた。
乾いた風と西国からの客人が行き交う街は、建物も纏う衣も、何処か異国の空気を含んでいた。自由と豊かさを謳歌していた街、その平和に亀裂を入れたのは、中央から派遣された新たな州牧だった。
彼が雲州の牧となったのは政治的な思惑が複雑に絡んでいるのだが(彼が名家の出で、過去に祖母が王家に嫁いでいたとか、彼の後ろに中央官僚の大者がいたとか)、前州牧とは比べ物にならない愚策を次々とやらかした。
それに異を唱えた者は、投獄、解雇、時には行方知れずになった者もいた。
やがて州城には州牧と彼に「諾」しか言わない官吏ばかりが残った。
西国から来る商人達に高額な通行料を請求し、法外な税を要求した。
備蓄の米を買うための財源は、州牧やその取り巻き達の懐に消え、凶作の年には多くの貧しい民が死んだ。
やがて西国の商人達は雲州から蘭州に行路を変え、州牧を含む高官達は雲州から逃げ出し、商人達は財を持って他州に移った。
残されたのは弱く、貧しい民だけとなり、甘い汁を吸い尽くされて干からびた雲州は、王位争いの中で忘れ去られて行った」
「なるほど…………」
李華の説明は飾り気もなく、明確だった。
気候に恵まれた土地なら、農業で復興させることも出来るが、雲州は壊滅的に土地に恵まれていない。
気温は低く、雨が降らず、乾燥している。
旨味がなくなった地から害となる、あるいは無能な官吏達を少しづつ排除し、代わりに有能で志を持つ者を送り込む。それを長い時間をかけてやってきた。
「と言うわけで、お前はクビだ。新しい職場に紹介状は書いてやるから、さっさと出て行け」
劉伶は必死で無表情を保った。極悪非道な上司と、地獄のような修行からさよなら出来るのだ、表情が緩みそうになるのも仕方がないだろう。
「…………お前、喜んでるだろう?」
「とんでもない」
慶可の後ろで、李華が笑いを堪えているのが見える。
「犀州官吏の皆さんには、本当によくして頂きましたから」
これは本心だ。
右も左も分からない劉伶を犀州の官吏達は暖かく迎え、接してくれた。
「でも、何で『州牧』じゃなくて、『州牧補佐』の護衛なんです?」
「州牧には護衛が必要ないんだ」
そう言って、李華は意味深に笑った。
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