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「ありがとう」
「いえ、熱いですから気をつけてくださいね、桜井先輩」
テーブルに珈琲カップを置いて一礼して和音さんの方へ歩いていく律子ちゃん。その優雅に歩いていく後ろ姿から滲み出ているのはメイド長もびっくりの凄腕メイドオーラだった。
いや、別に俺もメイドには詳しくないけど、なんかそんな感じがしたので思ってみた。でも、律子ちゃんがメイドになったらさぞかし大変だろう……ご主人様は。
「おっ、いい匂いだな。さすがは律子の淹れる珈琲は香りからして違うね」
嬉しそうに珈琲カップを受け取ると冷ますのも面倒臭そうに一口啜っていた。
「熱っ――でも、おいしい」
「ありがとうございます」
本当に嬉しそうな笑みを浮かべ、和音さんと話している律子ちゃん。
なんともほのぼのした時間が流れているが――
「いやあ――りっちゃんの淹れた珈琲はおいしいね」
この人はなんで普通に珈琲なんぞ飲んでいるのだろうか。
「ありがとうございます」
しかも、普通に会話している律子ちゃんもすごい。
「それよりも、諸君――むっ?」
更に普通に会話に加わろうとしている変態部長の目が光った。
「なに? 早く話しなさいよ」
「……いや、ちょっと待って。何か…………来るっ」
和音さんの言葉を遮り、俺や律子ちゃんにも"動くな"とジェスチャーをしている部長。
不満そうに唇を尖らせて部長を睨んでいる和音さんは俺に『何? こいつ』と目で合図を送ってくるので、『いつもの事じゃないですか』と送り返した。
「は、はうっ……ううっ」
ただ、律儀に動くのを止めて待っている律子ちゃんは歩き出そうとしたところだったようで、片足を上げたまま右へ左へと揺れていた。相変わらず真面目というか、素直というか。
そこが律子ちゃんのいいところなんだろうけど、将来は悪徳業者とかに騙されるタイプだろうな、やっぱり。
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