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毎日、退屈だけど……俺は結構、気に入っている。
赤く染まった夕刻の空に別れの挨拶をして教室を飛び出し、颯爽と廊下を駆けていく。その先には自由への門が開き、欲望渦巻く夜の町への入り口が待っているのだ――。
「……意味が分からない小説だな、これ」
ため息混じりに呟いて本をテーブルに戻し、背伸びを一つ。凝り固まった筋肉が悲鳴を上げているが、これが結構気持ちよかったりする。
「それにしても、誰も来ないのだが……」
入り口の方へ目をやったが廊下には人通りはなく、静かで寂しさが身にしみてくる。そのうち来るだろうと待っていたが誰一人として来る気配もなく、仕方なくテーブルの上にあった本に手を伸ばしたのだが……これが失敗。
頭が痛くなり、新鮮な空気を吸おうと思っても、開け放たれた窓から差し込む午後の日差しは六月にしては夏の陽気をたっぷりと含んでおり、吹き込んでくる風は壊れたエアコンのように凶暴な熱気で俺を茹で上げようとしているようだった。
蒸し風呂だね……ここは。
しかも、こんなところで待ちぼうけとは酷い仕打ちである。
現在、俺がいるのは通称『文化棟』と呼ばれている七曜学園の一番奥にある第三校舎で、文化系の部活ばかりを集めた部室棟である。その四階の一角にある部室で、結構な時間待ちぼうけ状態になっている俺は忘れられた存在なのではないかと心配になってきた。
ここは西日が容赦なく当たって夏は暑くて息苦しくて、冬は霜焼けが出来て凍えるほど寒い。できれば逆だと嬉しいのだが、六畳一間のボロアパートよろしくって感じをしたプレパブ造りの内装をしているので、気密性には期待は出来ない。それ以前に手抜き工事丸出しだと思うのは俺だけだろうか。
これが我が家の部屋だと言ったら、親に懇願してエアコンでもなんでも付けてもらうところだ。
それにしても……今日も活動すると言うのでやってきたのに、誰も来ないとはどういう了見だろうか?
……はあ、暇だ。
盛大にため息を吐いて立ち上がり、珈琲でも入れようかと思った矢先――
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