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サラサラの黒髪に切れ長の瞳、すらっとした男前な鼻に同じく男前な唇。パーフェクトに甘いルックスに巧みな話術で女子には絶大な人気があるのだが、一つだけ困った癖がある。
「でもね……僕が胸を触ったら、『あんっ』とか言いながらも思いっきりビンタしたんだよ。しかも往復ビンタだよ? 酷いと思わない? ねえ、ねえ」
「自業自得です」
この天然年中発情オープンスケベな性格のせいで、今まで特定の彼女が出来た事がないのだ。
変態部長の困った癖――それは女子に触ってないと暴れ出してしまうというものだった。まあ、一日くらいなら平気なのだが、二日目になると徐々に目付きが危なくなり、三日目には逝ってしまう。
それはもう、色んな意味で逝ってしまうから、それを止めるのも大変だったりするわけだ。しかも、その役目が何故かいつも俺に廻ってくるので迷惑な事極まりない。
しかし、どうしていつも俺なのだろうか、と毎回考えているが答えが出てこない難問である。
「そんなわけで僕を慰めてよお、ともちゅあーん」
「俺にそんな趣味はないです」
「その可愛らしいキュートな笑顔で僕を癒してえ」
唇を尖らせ、目に涙を浮かべて、如何にも惨めな男を演じて俺に駆けてくる変態男をヒラリと交わし、弁慶の泣き所に渾身の一撃とばかりに足払いを一つ。
「へぶしっ」
「俺は男です。こんな顔ですが、男に抱きつかれる趣味はありません」
床に顔面からダイナミックにダイブした部長はもんどり打っていたが、痛みに耐えながら丸まって同情を誘うように俺を見上げていた。しかし、同情する気がまったく起きないのは日頃の行いが悪いせいだろう。
多分、一番の被害者は俺だろう……。
こんなわけの分からないクラブに何も知らない純真無垢(自分で言って気持ち悪いが)な一年生だった俺を引き込んで、何をするわけでもなく一年以上も青春を無駄に過ごさせたのだからとんでもない人だよ。
俺の顔が好きだった子に似ているとか、わけの分からない口説き文句(?)を言ったあの頃の部長は今よりは人間味溢れる素敵な人だったのに、一年でこうも変態っぷりが上がるとは予想外だった。
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