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「ったく、油断も何もあったもんじゃない」
「少し落ち着いてください、副部長」
荒い息を吐いて何度も部長を足蹴にする副部長。
この男勝りな巨乳娘――名を桜井和音(さくらいかずね)と言い、クラブの副部長を務めている三年の先輩である。
かなり長めの黒髪は腰を通り越してお尻の辺りまであるがそれを一つに纏め、切れ上がった目尻には力強い『男』を感じるが唇はグロスを塗っているようで『女』を感じ、このミスマッチな色気が人気の秘密だと俺は分析している。
「このクラブにもう少しまとな男がいりゃ……ね」
「それはすいません」
この人にも部長に負けないくらいの変なところがあるので、色々と対処が大変なのだ。
「それよりも、なんで私の周りには女の子しか寄ってこないだろうか……なあ、智樹」
それを聞かれた俺はどう答えればいいんだろうか?
このクラブには難問をぶつけてくれる人が多い事だ。
……まあ、副部長の周りに女の子しかいないのは分かりきった事だが。
サバサバした竹を鉈でスパっと割ったような性格でハッキリと物を言う姿勢は男子にも女子にも人気があるが、ルックスが美男子に近いのにどちらかと言えば女子に軍配が上がっている。女子のファンクラブもあるし、熱烈なおっかけもいるくらいだから。
「智樹は私の事が好きか?」
「…………え、ええ」
「なんだ、そのたっぷりと空いた間は」
別に深い意味はないですよ、別に……ね。
「副部長はいい人だと思いますよ。あれさえなければ……ね」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
小さく囁いただけのつもりだったのに、しっかりと副部長の耳に届いていたようで俺は首を横に振って言葉を濁した。
副部長の変な癖は部長に比べれば可愛いものだ。しかし、その被害は新たな人災を招く事があって、そっちの処理は部長より大変だったりする。
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