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俺は香野に話しかけた。
「何か考えごとですか?」
「ええ。まぁ」
香野の素っ気ない返事。
考えごとに集中したいのだろう。
まだまだ信号は青になる気配はない。
今度は香野が話しかけてきた。
「高田さん。高田さんと長谷川のあいだには何か因縁のようなものがあるんですか?長谷川はなぜ高田さんを選んだのかがいまだにわからないのです。ですが高田さんはなぜ長谷川に選ばれたのかご存知なのでは?」
俺はその言葉を聞いて思い出していた。あの忌ま忌ましい過去を…。
それは今から五年前にさかのぼる。
高田がまだ刑事になりたての頃だった。その頃の警察は連続殺人事件の捜査をしていた。
そんなある日、高田がいつものように聞き込み捜査をしていたときのことである。一本の無線が飛び込んできた。
それは連続殺人事件の新たな犠牲を知らせる無線だった。ちょうど現場の近くに居た高田は現場に急行した。
現場につくとすでに警官が何人か来ていて野次馬を近付けないようにしていた。
高田は警察手帳を制服警官に見せると立入禁止と書かれたテ―プをくぐっていった。
そして見慣れた背中に近付いて行くと高田はその男に声をかけた。
「井出さん。新しい犠牲者ですか?」
井出とは高田の上司である。スマートないでたちに似合わない不精髭が特徴だ。
「おう、高田か。新しい犠牲者だよ。まだ若いのに…」
高田はブルーシ―トのかけられた被害者に目を落とす。そして被害者に向けて手を合わせブルーシ―トをめくった。
高田は我が目を疑った。
「昨日会った。笑顔で俺を見送ってくれた…。どうして!!なんで!!くそったれ―!!」
そう言って地面をおもいっきり殴りつけた。
それに驚いた井出は状況が把握できずにいた。
「どうした高田!落ち着け」
「くそ―!」
「落ち着け!!」
何度も何度も高田は地面を殴りつけた。固い地面を殴りつけているせいで拳から血がでていてもなお殴りつけた。
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