第壱話・悠久なるメロディ

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      (一) 私は店の中へ戻り、商品のチェックを始めた。 そこかしこに陳列する、骨董品の数々。 傷つけないように、定期的に慎重に手入れをしている。 もちろん、沙良には今まで一度たりとも触らせたりしていない。 もちろん、それが本人には不服そうだが。 だが、触らせないのには理由がある。 ━ここに置いてある骨董品は、ほとんどいわくつきだからだ。 扱う者によっては、それが幸福への道しるべになったり、奈落の底へ落ちる恐怖の品になったりする。 そう、しいていえばもろ刃の剣だ。 だから、丁寧に扱う。 猫又堂にはほとんど不安や悩みを抱えた人間しか訪れない。 闇が誘うのか、導かれるようにときたまふらりとやってくる。 たとえ、見た目が幸せそうでも、心の奥底には影が澱のように沈んでいる。 と、チェックが終わりに差し掛かったその時、入り口のドアベルがチリンチリンと音を立てた。 私は視線を上げる。 入り口に小さな子供が立っていた。 その場に佇み、不安そうに、店の中をキョロキョロ見ている。 年は八つか九つぐらいか。 私は深々とお辞儀をした後、その子供に言った。 「いらっしゃいませ。ようこそ、猫又堂へ。」
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