序章

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沙希は走りながら後ろを振り返った。民家の並ぶ集落からは火の手が上がり夜だというのに周りを煌々と照らし、雨音に混じり村人達の逃げ惑う声…そして…断末魔の悲鳴が村中に響き渡っていた。 与一と沙希は煉を抱きかかえ村の裏手の山の中にある自然洞穴に身を隠した。 「ここなら暫くは安全だろう……。」与一が言うと沙希は力無く頷いた。 「父ちゃん、冷たいよ。どうしたの!?……何で村が焼けてるの?なんで……!?」幼い煉にも今、自分達の置かれている状況がただならぬ事位は分かっていたのであろう。 そんな気持ちを察したのであろう、沙希は煉をそっと抱き寄せ優しく包んだ。…そして与一が声静かに語り始めた。 「畑の様子を見てた時だった。雨音の中に足音が混じって聞こえてきたんだ…段々段々足音の数が増えてきて……闇の中から奴らが現れた!!何匹も何匹も。奴ら村の者次々と殺して……目の前で喰らってやがった!!………。」 そこで与一は詰まってしまった。沙希も顔を手で覆い静かに泣いていた。 ……!?その時だっ『ザクザクザクザク』何者かが草木を掻き分けこちらに向かってきていた!足音が近付くにつれ辺りに死臭が漂ってきた。 「…奴らだ…来る……!」与一呟いた。 『フシュルル…エサのにおいがスルナ!?』 額から長い角を生やし、上下の犬歯は牙の様に…例えるならば『鬼』の様ないでたちの化け物がもの凄い死臭を放ちながら近付いてきていた。 「もう…助からねぇな…いつか見つかる……。」与一はそう呟いた。 「せめて煉だけでも…。」そう沙希が言うと、2人は顔を見合わせ強く頷いた。 「煉……強く生きろっ!父ちゃん達の分も強く強く生きてくれ!!」 「煉……これから沢山辛い事があるだろうけどあなたなら大丈夫よ!父ちゃんと母ちゃんの息子何だから!!」2人はそっと煉を抱き寄せた。 「やだよ。俺、父ちゃんと母ちゃん居なきゃやだよっ。」煉は泣きながら強く抱き返した。 その間にも化け物の死臭はより一層強くなってゆく……。 「何があっても決して此処を出るなよ!」 そう言って洞穴から出て行った父と母の最後の顔は、とてもとても優しい笑顔だった……
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