第一章

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「先生!薪割りと水くみ終わりましたっ!」 ボサボサの茶色の髪の毛を後ろで結び、すらっと背が高く、着物を脱いだ上半身からはしなやかな無駄な肉を削ぎ落とした見事な体つき、そして右目が不思議な緋色をした青年が裏の戸口から顔を出した。 あの悪夢の夜から十数年、幼さの残る少年は頼もしい青年へと成長していた。 名をあの時の侍、焔崎兵護(ほむらさきひょうご)の名字をもらい受け。 焔崎 煉(ほむらさきれん)と名乗り。兵護を創始とする『焔崎流剣術』の修行を、兵護と出会ったあの日から山あいに小屋を建て毎日欠かさず続けている。 兵護は文武両道、『剣の道は力だけにあらず、正しく使う心、力を上手く使える知識がなければならぬ』という信念のもと、煉に文字、計算、文学と言った学業も学ばせていた。 「煉か、今日は昼まで稽古した後に麓の町まで使いに出てきてくれ。」兵護の言葉に煉は大きく頷き、 「はいっ!!」と、大きく返事を返した。 麓の町までは煉達の住む小屋から街道まで一度出る、そして街道沿いに進まなければ行けない。片道約4里(今で言うと約16Km)程の距離にある。 大人の足でも時間がかかるのだが、煉はその半分以下の時間で帰ってくる。故に日々の鍛錬の賜物であろう。 街は背に山、眼前に海を望む為店に並ぶ品も海の幸山の幸が豊富であった。煉達もここで一月に一度食料等を買い付けにやってきていた。
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