†胃癌†

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私19歳。 同棲して二年を迎えた冬。26歳年上の忠義が吐血した。綺麗な紅い血だった。   胃癌で余命半年…。一年後の生存率は30%…。   淡々と話す医師の目から、私は目を離せないでいた…涙…後悔…悲しみ…感情がでてこないでいた。声も…でない私は、先生の話が終わると無言で診察室を出た。締め付ける思いが何なのか分からないまま…忠義に告知するかどうかの答えも出さず…忠義の待つ病室へ。忠義の顔が懐かしく思えた瞬間に、私は自分に戻った。忠義の『先生、何だって⁉』の問いに、本当のように『胃潰瘍だってさぁ😃』という【嘘】が即答された。   ……告知できない…… 忠義の…[想い]…[心]が、私にはわかるから。   二ヶ月後。「まだ…生きたいな。もっと、お前を感じたい…今は…まだ…死ねないよ…死にたくないよ…。お前の苦労になってしまうけど、お前の笑顔を見ていたい…」    天井のシミが男の横顔に見える。と、独り言を言った……   延命の為の…手術…放射線…抗がん剤…。 一年後。一人で歩けなくなった。白い枕に…全ての髪の毛が落ち…鏡を見なくなる。 二年後。再手術…抗がん剤…痛み止め…。洗顔や歯磨きさえも無理になり…5分程度で話し疲れる。便秘と体力減少で食事を断念。点滴生活になり、尿瓶とポータブルから、カテーテルとオムツに。 三年半後。寝台車で家に帰宅。痛み止めが効かなくなり、自宅での生活を断念。  病院でモルヒネを使用。   四年後。一日に1時間…意識があるかどうか…。 ろれつが回らない…。 目の焦点が合わない…。 口の異常な渇き…。 体内から出る薬物特有のニオイ…。   この1時間の間に、忠義は生きてるのだろうか。   唸り…天井のシミに手を伸ばす。心電図が乱れるのは不思議な事ではない。     「もう、忠義が忠義では…いられない…?…。……忠義…。私は、大丈夫だよ。忠義の顔、身体…爪の形に肌の感触だって忘れる事ないよ。思いや考えだって想像つくもの。話し方に歩き方だって真似出来る程焼き付いてる…。心配しないで…忠義…楽になっていいよ。私の心の中で、ずっと暮らせばいい…」     私が話した翌日に逝った……     「……ありがとう😌」     と、言い…顔を歪めた。笑って逝ったんだ…って……。……私は微笑み返した。
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