プロローグ

2/2
前へ
/51ページ
次へ
ざわついた駅のホーム。 特に暇を潰す手段も無く、俺は空ばかり見上げていた。 透き通るように青い空、飛び交う鳥達。 いつも見る景色と全く変わらない。 いつの間にか、俺は待たされる時間に慣れて空を好きになっていたんだ。 そんな俺が待っているのは……。 「お待たせ~!」 「おせぇよ。」 目の前の少女は慌てて俺の方に走って来る。 どうやらまた寝坊したみたいだ。 「あっ……。」 その声と同時に少女の体が宙を舞った。 「あちゃー……。」 俺は思わず顔を手で覆った。 少女が音をたててずっ転ける。 「痛いよ~……。」 目の前の少女は顔を赤くして今にも泣きそうな顔をする。 「今日も派手に転けたな。」 俺はそう言って少女の頭に手を置く。 「いじわる……。」 少女はスネる。 いつも通りだ。 これが俺のいつも通り。 ここが俺の落ち着ける場所。 「行くぞ…優希」 俺は彼女の手を握った。 握った手は温かくて冷めた俺の手に温もりをくれた。 少女の名前は中村優希。 俺の彼女で高校の頃からの付き合いになる。 見ての通りドジな奴で、さっきみたいにずっ転けるのは珍しくもない。 そんな彼女に俺が惚れた理由……。 彼女が自分より人をとる優しさを持っているからだ。 だからこそ守ってやりたかった。 それが今ここにいる理由。 そして彼女に出逢った理由。 俺の生きる意味。 いつだってこの場所に安らぎがあった。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加