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ざわついた駅のホーム。
特に暇を潰す手段も無く、俺は空ばかり見上げていた。
透き通るように青い空、飛び交う鳥達。
いつも見る景色と全く変わらない。
いつの間にか、俺は待たされる時間に慣れて空を好きになっていたんだ。
そんな俺が待っているのは……。
「お待たせ~!」
「おせぇよ。」
目の前の少女は慌てて俺の方に走って来る。
どうやらまた寝坊したみたいだ。
「あっ……。」
その声と同時に少女の体が宙を舞った。
「あちゃー……。」
俺は思わず顔を手で覆った。
少女が音をたててずっ転ける。
「痛いよ~……。」
目の前の少女は顔を赤くして今にも泣きそうな顔をする。
「今日も派手に転けたな。」
俺はそう言って少女の頭に手を置く。
「いじわる……。」
少女はスネる。
いつも通りだ。
これが俺のいつも通り。
ここが俺の落ち着ける場所。
「行くぞ…優希」
俺は彼女の手を握った。
握った手は温かくて冷めた俺の手に温もりをくれた。
少女の名前は中村優希。
俺の彼女で高校の頃からの付き合いになる。
見ての通りドジな奴で、さっきみたいにずっ転けるのは珍しくもない。
そんな彼女に俺が惚れた理由……。
彼女が自分より人をとる優しさを持っているからだ。
だからこそ守ってやりたかった。
それが今ここにいる理由。
そして彼女に出逢った理由。
俺の生きる意味。
いつだってこの場所に安らぎがあった。
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