『桜と蜜蜂』

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星と、月と、人間が独り。 それを包む圧倒的な闇がうるさいくらいに静かで、 塞がれた目は、耳は、ほんの少しの恐怖と、なぜだか不思議な安らぎを与えてくれる。 昼間の騒がしい世界にある、見たくないもの、聞きたくないものから、遠ざけてくれるから。 夜は、そうやって不器用に、今日も人々を癒している。 夜空を眺めるのは独りの老人。 窓際のベッドに仰向けになり、首だけを外に向けてぼんやりとそれを見ていた。 部屋には彼以外の姿はなく、居るのは彼と、インコが一羽。4人部屋の3つのベッドはきれいに片付けられていて、 きっともっと狭いのだけど、 彼にこの部屋は無駄に広く感じた。 部屋だけじゃない。 きっと、 この世界そのものが、 無駄に広がり、 無駄な繋がりや 無駄な争いや 無駄な関わりを持つものが 今の彼には、とても意味のない それこそ、無駄なことのように感じられているんだろう。 そんな彼だから、 今まさに遠くから聞こえた汽笛の音とか、 窓の端に反射した ライトのことなんて まるで関心の外だった。
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