『桜と蜜蜂』

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聞こえるのは自らの呼吸の音だけの、 そんな音闇の中から微かに空気の掠れる様な音。 次第に大きく、強く。 気付いてから六往復目の呼吸を吐き出した頃。 いよいよ音は激しくなり、 音源はぐるぐると天井の裏側で旋回をしていた。 近付くにつれ、がっちゃがっちゃと金属音を伴っていたそれは、 最後にけたたましく騒ぎ、 溜め息と共に停まった。 天井を見上げ、瞳を閉じていた彼はまた首だけをゆっくり捻って外を見た。 見慣れた星空。 また天井に向き直り、瞳を閉じた彼に、唐突に声が語りかける。 「只今午前0時、丁度で御座います。 蜂谷誠(はちやまこと)様。 恋文のお届けに伺いました…」 穏やかで、記憶の片隅…曾祖父に似た高い声だった。 冷静、 いや無関心。 突然の出来事にも眉ひとつ動かさず、彼はただ空を眺めていた。 最早驚きなど忘れてしまった。 感情は凍りついていた。 最期の訪問者、彼の次の言葉を聞くまでは…。 「蜂谷誠様」 「松野咲良(まつのさくら)様からお手紙のお預かりでごさいます」
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