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「御自分で読まれますか?」
手に取った水色の封筒はふわりと軽く、絹の様に滑らかな質感はこの世の物とは思えない心地よさを与えてくれた。
『蜂谷誠様』
癖のある宛名書き、すぐにあの人と判る。
「誠」の文字が下手で横長になってしまう所も、あの頃と同じだ。
「君は一体…」
「私はラートリ。列車と共に夜を駆ける『恋文配達員』でございます」
「恋文…配達員…」
こんな物を受け取らなかったら余程信用もしないだろうが、
現に彼が持ってきたのは紛れもなく彼女の、咲良からの手紙だ。
悪戯にしては手が込みすぎているし、元より私にこんな事をする様な親しい人間などいない。
「それの読み方は少々特殊でして、差し支えなければお教え致しますが」
封筒と同じ水色の燕尾服を着た老人を今一度眺めてみる。
年の頃は6、70位だろうか、銀色の髪は後ろで結び、腰の辺りまで伸ばしてある。
瞳は澄んだ青色で、尖った耳には年甲斐もなくピアスを三つも着けている。
「蜂谷様、宜しいでしょうか?」
「あ、あぁすまない。
続けてくれ」
軽い咳払いに続いてラートリという老人は手紙についての説明を始めた。
「まず、その封筒には便箋など手書きの手紙は入ってございません。
手紙を書かれたお客様には宛名と差出人様のお名前のみご記入頂いております」
なるほど確かに触ってみても中に紙が入っている気配はな…
「…?」
「お気付きの様でございますね。
封筒の中にはコインが一枚入っております。
このコインにお客様の気持ち、メッセージを込めて頂いている訳でございます。どうぞお手に取ってみて下さいませ」
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