第十話 かけひき

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「敵の要求はなんだ?」 オレは、コートのポケットから革手袋を取り出して、手にはめる。その様子を見ながらリディックは、 「逃走路の確保だが・・・・・・なにをする気なんですか、あなたは」 答えつつも、訝しげに問い返してくる。 「ディヤングに要があってな」 オレは革手袋の上から掌に拳を打ち付けて、身構える。そして、渾身の右ストレートを鋼鉄の扉に叩きつけた。その瞬間、衝撃に分厚い鋼鉄製の扉がくの字に折れ曲がり、耳をつんざく轟音とともに崩れ落ちた。 オレが素手でこの扉を破壊した事実に、その場にいた全員は絶句していた。 もちろん、本当の素手ならば不可能だろうが、この革手袋があればたやすいことだ。名前は知らないが、ロステクの一つだ。どう言った理論でかも分からないが、この革手袋をすると、衝撃がほとんど人体に伝わってこないし、衝撃力もごらんの通りになる。グレースも似たような手袋を付けていたが、あいつの場合は 攻撃を受け止めたし、蹴り飛ばしたりもした・・・・・・・・・。 「合図があるまで入ってくるな。見張ってろ、エリス」 「え、ええ、わかったわ」 反射的に相づちをうつエリス。コートの埃を払ってオレは、技術室の中に足を踏み入れた。 雑然とした、至るところに機械や工具が散らばる部屋の中、その中央に諜報員のマークだろう、細身の男が女を盾にするように抱き寄せ、その首筋に小型の銃を押しつけていた。そして対峙するようにディヤングがいる。こいつらを含め、少し遠巻きにして囲んでいる白衣を着た研究員たちも、青ざめた顔でこちらを見 つめていた。 「邪魔させてもらうぞ」 オレは不敵に笑みを浮かべて、鋭い殺意の目線をマークに向けた。ディヤングは、引きつった顔をしたままオレを見て、 「アーレス、いきなり扉壊すなんて心臓に悪いって」 「オレはこれでも忙しい身だ。それに、待つのも嫌いだ」 オレの言葉に、ディヤングは、さすがお前だ、と呟いて肩を縮ませた。
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