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「星が球体なのに意味やロマンなんて無いさ」
俺の友人がそんなことを言っていた。今、俺は月を見上げている。三月の街はまだ肌寒く、ダメージデニムの隙間から、夜風が入り込んできた。
俺はポケットを漁る。そしてそこから、ぐちゃぐちゃになったラクダの箱を取り出す。その箱の中には、肺ガン製造器が横たわっていた。
「後二本しかないのか」
俺はそれを口に加え、右ポケットから出したジッポで火をつける。思い返してみれば、このジッポは高校の時から俺の相棒だな。俺は道路の真ん中に立ち、月を見上げながら煙草を吸う。
俺と初めて会って、会話に困った人間の8割は、俺の吸う煙草について聞いてくる。
――変わった煙草だね?
――知ってるけど吸ったこと無いや。
――どんな味?
何十回と聞かれた質問。
そんなとき俺はこう答える。“砂漠にひっそりと立つバーの中にある埃の味”と。その問答で9割の人間が俺を避け、残りの1割は、興味津々と言う様子で俺に接してくる。
月と煙草で思い出した。そういえばあいつは、高校時代、俺が煙草を吸おうと火をつけると、素手でそれを揉み消してきたな。
「俺の前では吸わないでくれよ。他のどこで吸おうと勝手だけど」
あいつはそんなことを言っていた。星が球体なのに意味やロマンなんて無いと言うのと同じような顔して。
俺はあいつのそんなところが好きだった。そんなことがあったからか、俺はあのメンバーで過ごしているときには、煙草を吸わなかったな。
今思ってみると、あいつは変わったやつだった。正義感に溢れ、現実主義者で、でもロマンチックな詩や歌を書いて。
俺は少しだけそんな過去を愛しく思った。しかしそれは過去。戻らない日の残り火だ。
一つ勘違いしないでほしい。これは俺の物語で、俺の友人の物語ではない。俺と彼らはすでにねじれの関係にいて、二度と交わることはない。
俺が感傷に浸っていると、背後から暴力的なクラクションの音を当てられる。俺は慌ててそれを避けると、手に持っていた煙草の箱をその車に投げつけた。
「ちくしょう、最後の一本が」
俺は悪態を吐く。足元に転がる石を、思いきり蹴り飛ばす。何にイラついてるのか。思春期のガキじゃないんだから。
酒でも飲むか。俺は行きつけのバーに行くために、路地の森に迷い込む。
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