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待ち人。
何処でどう間違ったのか。
予定……予想なら今頃大成功して、幸せな家庭を築いていたハズなのに。
成功するまで家には帰らない。そう言ったあの日が憎らしい。
必ず成功するからと言って家に残してしまった彼女は、どんな思いで待っているのだろう。
その時、軽快な着信音が流れた。
メール受信。
週に一回、メールが来ている。
彼女からだ。
[はやく帰って来てください。首を長くして待ってるわ]
……いつもこの文面だ。
俺は溜め息をつく。
何が間違っていたのだろうか。
会社を作り、そこそこ社員も集まり始めていたのに。
リストラって怖いなぁ……。
鈍くなった頭でぼんやり思い、俺は苦笑した。
覚悟を決めて。
金も無いが、今更また会社を設立しようなんて思わなかった。
もう、沢山だ。
俺は携帯で文字を打つ。
送信先は、彼女。
[今から、帰るよ]
そう送った。
足取りは重い。
けれど、久しぶりに彼女に会える。
気分はそれほど重くはなかった。
さあ、帰ろう。
家の前に着いた。
俺は覚悟を決めて、扉を開ける。
――しん。
人が、出てこない。
俺は怪訝に思って、中を見回した。
廊下を歩く。
ひとの気配がない。
買い物にでも行ったのだろうか。
誰も居ない。
「おーい……いるのか……?」
「――おかえりなさい、あなた」
リビングから声がした。
最愛の妻の声に、俺は目を輝かせる。
俺はリビングに入った。
そこに居たのは――。
彼女の、首吊り死体。
首が異様な角度で曲がり、伸びきっている。
その肉体は腐敗が始まっていて、異様な匂いを発していた。
下に、なんだか判らない液体がぶちまけられていて、蛆がたかっていた。
飛び出しそうな目玉。
ソレが、
ぎょろり、動いて、
――俺を見た。
「ひっ………!?」
「ずうっと待っていたのよ、――首を長くして」
彼女が、押し潰された声で笑う。
手に、携帯が握られていた。
送信メール。
――首を長くして待ってるわ――
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