当たらずとも遠からず

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 俺――霧宮秋人(きりみやあきと)はそんな高校の1年3組に所属している。1年3組の教室は、4棟あるうちの4棟目。つまり一番端にある。各棟は渡り廊下で繋がっており、1棟は職員室と特別教室。2棟3棟4棟はそれぞれ、3年2年1年の教室である。1年は移動教室の際にかなりの距離を歩かなければならないので、この配置は1年生への嫌がらせではなかろうか。  俺の住居は浦浜市のやや東に位置する住宅街の一戸建て。浦浜駅から二駅ほど行ったところだ。通学時間は40分程。これが多少ネックである。学校が近場であったならどんなに救われることか・・・。  1年3組の連中は騒がしい奴らばかりだが、大半はいい奴で構成されている。入学して約3ヶ月が経ち、ようやく蟠(わだかま)りが解けてきた状態で、俺にも友達はできた。その一人が倉本司である。  俺は良き友人たちに囲まれ、学校生活をめい一杯満喫し、青春を謳歌(おうか)している最中・・・・・・だと思う。  廊下の突き当たりにある非常口を開け、その先にある非常階段を下り、裏庭に出る。  学校の裏庭は雑木林となっており、幾つかのベンチが置いてある。しかし普段この場所に訪れるのは俺くらいで、人気(にんき)と人気(ひとけ)のないスポットだ。俺がこの場所を知ったのは少し前のこと。  慣れた感じでいつもの木の下で幹に寄りかかり、弁当を開く。  遠くから運動部の掛け声と女子たちの嬌声が聞こえるくらいで、この場所は閑散としている。  蝉の鳴き声が聞こえない、不思議な場所。  弁当をかっ込み終わると、片膝を立てて眼を閉じる。  瞼の裏側に映る木漏れ日が心地よい。そよ風が前髪を弄(もてあそ)び、小鳥たちが子守唄を囀(さえず)る。  じわじわと押し寄せるまどろみに意識を預け、俺は暫しの浅い眠りに堕ちた。
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