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「お久しぶりね」
街中でそう声をかけられた時、一瞬誰だかわからなかった。
「え、あの、」
「人の顔をなかなか覚えられないのも相変わらず?」
そう言いながらクスクスと笑う彼女はどこか扇情的。
まるで知らない人、僕が見た事のない女の顔だった。
「あの、どうしたの?その…急に帰ってくるなんて」
「ちょっと、ね」
苦笑いをする彼女を見て何かあったな、と思った。
よくよく見てみれば(いや、実際はよく見なくてもわかるのだが)、彼女の自慢だった長い髪がばっさりと切られている。
そして前に見た時には左手薬指で輝いていたシルバーリングが姿を消していた。
「ぁ、髪…!!」
「…髪?」
「髪、切ったんだね。長いのも似合うけど、短いのもなかなか似合ってる」
「そう?…ありがとう」
話を変えようと発した言葉にふわりと笑う。
例えるならそう。
純白のような、昔のままの笑顔。
しかしその笑顔もすぐに消えた。
「…ごめんなさい。私、急ぐから」
「え、あ、うん。ごめんね。引き留めちゃって」
「久しぶりで楽しかったわ」
“また、いつか会いましょ”
そう告げて去って行った彼女を見送って
叶わないのであろう願いをそっと心の中で呟いた。
【古今の君】
(ねぇお願い。)
(ずっと昔のままでいて。)
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