『友人』

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少女が羽織っていた、 いや、少女の肩に辛うじて引っ掛かっていたボロ布が微かな音と共に床に落ちた。 月明かりを受け、蒼白く光る肌。   「私を抱いて下さいまし」   少女の懇願は、内容の後ろ昏さを別にすれば非道く真摯で、何処か祈りにも似ていた。 男は、逸る心臓をなだめ、静かに落ちたボロ布を少女の肩に、少女の肌に触れぬように掛けた。 冗談のように骨が浮き、艶のない皮膚が少女の惨状を物語っていた。   「抱いて下さいまし」   消え入りそうな少女の声。   「私には貴方様の親切に、このパンに、頂いた薬に報いる術が何一つございません。 ……ですからどうか」   男は困ったような表情で思案し、ようやく言葉を紡いだ。   「報いなくても良いのです」   「……え?」   それは聞いた事もないような言葉だった。 日々の糧の対価に身体を売り続けた娘には理解し難い。 対価が必要ないなどありえない。 更に思案を重ねた男が呟く。   「私達は友人なんです!!」   唐突な発言に困惑する娘。   「友人に何かして貰うのに対価は必要無いでしょう?だから……」   早口でまくし立てる男の声に吐息が重なる。 小さな、本当に小さな笑い声。 反らしていた瞳を戻すと、男の様子をおかしそうに見つめ笑う少女。 その瞳に光る滴。 その笑顔を見て独りごちる。 先程とは違う意味で逸る心臓に、 「参ったな。今友人だと言ったばかりなのに」 嘆息を一つ洩らした。
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