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第一部
港での仕事を終え、スラム街にある小さな教会に足を運んだ。
奥にある十字架の下まで進んでいき、そこに跪いた。
今日の無事を、今日の糧を得られた事を神に感謝し、これからも同じ日々が続くよう、祈った。
「君も毎日熱心だね」
僕は祈りを止め、いつの間にか傍に立っていたこの教会の牧師――トマスさんに向き直る。
「ええ。神に僕は救われましたから……」
兄の死。その絶望から救ってくれたのはこの教会の神父だった。
彼は屋根のある住居と、毎日の食料を与えてくれた。
不幸にも病で彼は死んでしまったけれど……彼から受けた恩、そして彼が仕えていた神に対しての恩は、決して忘れる事はできない。
神の教えが神父の厚意を促し、結果的に僕を救ったのだから。
「主は敬虔なる君の行いを見ていらっしゃるだろう。報いは必ずある」
「はい」
笑顔で僕は応える。
亡き神父の後を継ぎ、この教会を運営しているトマス牧師。彼にも感謝と敬服の念を抱いている。
礼をし、自分の部屋へと戻ろうとした時、牧師の声が僕を引きとめた。
「ああ、そうそう――例の件だが、認可が下りたよ」
「本当ですか!?」
我を忘れてトマス牧師に問いただす。
「本当は先週にその知らせが来たのだが……子供達を受け入れる準備が今日までかかってしまってね」
牧師も人が悪い。僕を驚かせるつもりで、実際に動きだせる段階になるまで黙っていたのだろう。
僕は涙を流して、牧師の両手を手に取る。
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
「君の養父様には負けるが……私とて神に仕える身。そして何より彼にこの教会と君の事を任された……このくらい当然の事だよ」
牧師の笑みを見つめた。
養父に拾われたあの日を除いて、この瞬間ほど神に感謝した事は無かった。
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