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子供達はスラム街の路地に身を寄せて暮らしている、孤児だった。
皆がどういう経緯で孤児になったのかは僕にも分からないし、彼等にも分からない。幾つだって理由は浮かぶ――生活苦から育てられなくなった、精神的な理由で育児を放棄した、想定外の妊娠で子供は要らなかった、地位ある人の不義の子でスキャンダルになる前に葬った…
…。分かるのは、この子達がかつての僕の様な、大人達の勝手な都合の犠牲者だという事。
皆はそれぞれ様々な方法で生計を立て、その日その日を何とか生きていた。
靴磨き。物乞い。廃品の売買。売春。
彼等はそのようにしてしか生きられなかった。他の生き方を許されなかった。
もちろん僕は彼等を援助した。だが、彼等を仕切っているのは大人――マフィアなど、裏で生きる者達である。
そういった者達は子供達に商売や客の斡旋をする代わりに、稼いだ金の一部を収めさせている。
……金づるである子供達をマフィアは手放すとは思えない。
だから手をこまねいていて、抜本的な解決をできないでいた。
でも、そんな地獄から彼等をどんな事をしてでも救うと決意した。
きっかけは、マリアの言葉だった。
『お客さんは皆、虐めるから怖いと思うよ。でも……私を虐めると喜んでくれるんだ。こんな私を生かしてくれるんだ。だから――』
マリアの言葉は僕が彼女を抱きしめた事によって中断された。
僕は泣いた。彼女の為に慟哭した。
――彼女は誰も呪わなかった。騙されても、傷つけられても、虐げられても、どんなにみじめでも。彼女は誰も呪っていなかった。
彼女を――子供達を救いたかった。純粋で優しすぎる彼等を、この醜い世界から解放してあげたかった。
そして。
彼等は僕と――兄と同じだ。
でも、兄は救われなかった。僕は兄を救えなかった。
だから、僕は彼等を絶対に救ってやると誓った。
今度こそは――絶対に。
それから孤児院の設立の為に奔走した。教会に保護してもらえればマフィア達も簡単に手が出せなくなる。トマス牧師に頼み込み、教会の土地を利用して子供達を受け入れる事を約束してもらった。
教会へ寄付されたお金だけでは足りなかったから、仕事を倍以上に増やし、牧師に出資した。
そして――僕の望みは叶おうとしている。
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