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開幕
自分の中の何もかもが腐っていた時期。
兄とスラム街を這い蹲るようにして生き延びていた時間。
生きる為に泥にまみれたパンを喰らい、通りがかる人から日々の糧を剥ぎ取った。
そうしなければ待つのは死だったし、その当時の自分の行為に対して罪の意識は無かった。
――でも、あの日ほど兄を止めれば良かったと悔いた日は無い。
兄がいつもの様に通行人の荷物を盗み取った。
運悪くその中身は麻薬で、盗んだ相手はマフィアだった。
そして僕は逃げ延び、兄は捕まり、次の日にグチャグチャの水死体になって見つかった。
兄のなれの果てを見つけた時、僕の口から漏れたのは笑いだった。
狂った様に、それ以外の事を知らないかのように、僕は笑い続けた。
――雨が地に落ちる音と共に、いつまでも僕の笑い声が響いていた。
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