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僕は字が読めなかった。
書くこともできなかった。
なぜなら、僕は学校というものに行っていなかった。
あの世界に生まれて、物心がついた時には働いていた。
そんなに重労働ではない。
最初は家事をしていただけ。一人で。
お母さんはいなかった。
誰も教えてくれなかったけど、すでに亡くなっているのだろうと幼いながらも気づいていた。
だけど、お母さんの温もりというのはなんとなく覚えていた。そのせいか、僕はときどき泣いた。訳も分からず涙が出た。
僕の兄さんは毎日働きに行っていた。僕と二歳しか違わないというのに。
僕の家は貧乏だった。子供も働かなければならなかった。
僕は兄さんを尊敬していた。
仕事の後でクタクタに疲れていたというのに、僕のつくった料理を食べて「おいしい」と言って、頭を撫でてくれるのだ。
僕はそれが何よりも嬉しかった。
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