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わたしは、生徒玄関から外へ出たときのあまりの温度差に、思わず両手をカーディガンのポケットに避難させていた。 冷たい風が頬にあたり、首筋を撫で、耳たぶを揺らす。 カーディガンの右ポケットの中には、さっきのナイフの柄の感触があった。ここが、在るべき場所なのだ。何度も何度も感触を確認して、ようやくほっとした気持ちになり、歩き出す。 このナイフで自分を傷つけることがあったとしても、間違いなく人に向けることはないだろう。開閉の扱いにもすっかり慣れて、いまはわたしの身体の一部だと思えるくらいだ。このナイフは、誰かを脅すためではなく、殺すためにあるわけでもない。このナイフは、簡単に言えばわたしそのものなのだ。 右ポケットからそれを取り出して、その、光に反射してきらめく刃を歩きながら眺めてみる。左のポケットに入っているハンカチを取り出して、刃をよくよく磨いた。及川先生の指紋がついたかもしれないから。 このナイフが錆びることは許されない。滑りが悪くなって刃が出にくくならないようにも気をつけなければならない。いつでも使える状態でないと、意味がない。
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