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わたしは、崖と崖のあいだに頼りなく掛けられた木製のつり橋を想った。その下の深い深い闇を想った。北風に晒されて、つり橋はひどく揺れていた。 わたしは、足場である木の板と板をつなぐロープを見ていた。それはところどころがほつれ、繊維が飛び出していた。老朽化したそれに、わたしはさっき磨いたナイフを近づける。どうしても、飛び越えられなかったのだ。どんなに闇を想っても、自分から手すりのロープを手放すことはできなかった。 ナイフは、どうしても必要だった。 切れ味はアウトドア用ほどではないが、ロープは刃先を当てるだけで少しずつちぎれていく。あと少しだ。あと少しで、終わり。 わたしは空を見上げた。太陽や雲があるわけでもなく、ただの灰色が広がっていて、わたしは見たことを後悔した。 ロープが、あと少しで全部ちぎれそうなところだった。そのとき、誰かの視線を感じてわたしは振り返る。 一瞬、目の前が真っ暗になった。
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